いよいよ始まります、EXP


いよいよ始まります。
「EXP / 牧野貴」
6日の岡山での上映からなので、まだあさってのことではありますが、明日には東京から牧野さんが出発ということもあり、もういよいよ、という感じです。
こちらも明日には大阪上映のための最終準備もあり、期待や不安が交錯しております。


牧野さんの映画を初めて観たのは第二回爆音映画祭での『The World』と『still in cosmos』の上映時。
どうやらすごいらしいという噂は耳にしていたので行ってみると、ジム・オルークのライブ上映ということもあってか、満席で立ち見も出るような状況でした。
そこで観た映画は、どうやって作られているのかもよくわからない、映っているものが何なのかもはっきりとしない超高速の粒子で、そんな不確かな光を観ているにも関わらず、いくつもの記憶が呼び起こされ、これまで映画と向き合うなかで感じたことの無い感情がどっと溢れる。しかしそれが何だったのかうまく掴めない。不思議な充実感と感動の手応えが、しかしはっきりと残る上映だった。
そのころの自分は今よりもはるかに映画上映に対しては原理主義的というか、デジタル上映というものに微塵も可能性を感じておらず、当時はまだシネコンでもたまにデジタル上映される作品がある、くらいのもので、やっと映画のデジタルデータを映画館に配信することがテストされはじめたころだったと思います。
フィルムの代替としてのデジタル上映ということであれば、効率化以上の利点があるようには思えず、上映時の安定性や光の美しさ、映し出せる光の表現の幅という意味ではやはりフィルムの方が優れているだろうと、それは今でも思いますが、とにかく今よりも遥かに堅物だった時に牧野さんの映画を観て、それを観た第一印象は、デジタルであれフィルムであれ、道具は使い手次第であるという当たり前のことを思い出させるには十分過ぎるものでした。デジタルにはデジタルの持っている力がある。それを作り手も観客も発見することが出来るかどうか。堅物になって否定ばかりしているのが恥ずかしくなったのを覚えている。そして道を切り開く人の勇敢さを感じた。
そのとき自分の身体に飛び込んで来た光と音の粒子への感動がなにより第一にあるんです。
今回自分が牧野さんの作品を上映するというときに感じている不安とは、そのとき受け取ったのと同じほどのものをどこまで映しきれるだろうかというものだ。これまで本当に大きなものを受け取ってきた。だから、初めて観る人や、映画に新たな出会いを求める人に、自分が感じたのと同じか、それより大きな体験を用意したいと思う。
これまでいろんな作り手の映画を上映させてもらったけれど、雑な上映になったことは絶対にないと断言出来る。どこかの劇場を借りて上映するよりも質の高い映写をしたという自信もある。それについてはここで言っても観たことない人にはわからないだろうし、これまで一度でも自分たちの上映に来てくれたことがある人ならわかってもらえるのではと思うので詳細は語らない。我々DOOM!は「Ultimate Projection Team」と名乗ってたりする。超絶上映集団という、中国雑技団的ななんとも如何わしい呼称ではあるが、デジタルであれフィルムであれ、上映のための扱いに関しては自信がある。良い上映はするけれど、あくまで呼称は超絶であります。

岡山の上映では会場にすでに上映設備があるのだけれど、プロジェクターは牧野さんの私物を持って行く。スピーカーは僕が使っているものを持って行くのが一番いいように思ったので、そうすることになった。
そうやって、少しでもベストコンディションで上映出来るようにしていく。それは岡山だけでなく、大阪も、JAPONICAも、同志社でも変わりない。
牧野さんの作品自体は一見すると非常に抽象的であるだけに、作品にはっきりとした具体性を与えることの出来るこれら機材や環境、つまりそれら一つ一つのシチュエーションの積み重ねによって現出される光や音に可能な限りの強度を与えることが重要になる。
映画という芸術が持っている原始的な光と音の鳴動への感動。その力をどこまで発揮することが出来るか。そこが大きな賭けとなる。

今回の上映はデジタル上映といってもブルーレイではなく、パソコンからの出力となる。画質としてはDCPでの上映と遜色ない形式で上映できる。
大阪の上映では『Space Noise』がある。これはデジタルで上映されるものとは別に、ループする16mmフィルムを部屋全体に投影するものになる予定。これについてはさらにいろいろと準備しているものがあるのだが、やってみるまでどうなるかわからないことが多いため、当日の上映前にお知らせします。
京都JAPONICAではタテヨコ2.4mのスクリーンを借りて、japonicaの空間をまったく別のものに変えてしまう。これもまったく初めての試み。そこに無理矢理プロジェクターを、こちらも二台設置する。音楽イベントでの映画上映、という言葉では片付けることのできないものになると思う。
同志社の映写はほんとうに質が良くて、これについてはこれまでの実績から何も心配することはない。期待するのは、「GHOST OF CINEMA」というタイトルと、企画が動き始めたころに牧野さんがレクチャーのタイトルとして呟いていた「映画における幽霊について」という言葉。
この日上映されるビル・モリソンが作る作品は、彼がウェブにアップしているいくつかの断片を観る限り、幽霊が記録された映像ではなく、フィルムから浮かび上がった幽霊が世界に浸食してきている過程の記録のように見えてならない。どんな話しをするのかとても楽しみである。

Light Loop from Bill Morrison on Vimeo.

これらが「EXP / 牧野貴」です。あとは当日を待つばかり。
こちらとしては言えることはひとつ。
すごい映画を上映するので、どうか、この機会を逃さないでほしい。
それだけ。