best film of 2011 安田和高


 安田和高

yasuda3.jpgあらためて並べてみて思ったのが、いずれも懐の深い10本だ、ということ。ここには豊かで、大らかで、果てしのない路が伸びている。「No Direction Home」で、「We can’t go home again」で、「Street of No Return」な、「Road to Nowhere」へ、ようこそ。そんな感じ。わくわくするじゃないか!

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 『果てなき路』 (モンテ・ヘルマン)
→呪われた映画(作家)による映画(制作)の「果てなき路(ROAD TO NOWHERE)」。そこはどん詰まりのようでいて、そうではない。その先は「NOWHERE」へと突き抜けている。歪つで、虚ろで、しかしおそろしいほど蠱惑的な傑作。

 『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』 (ニコラス・レイ)
→スクリーンいっぱいに映画があふれる。それは若さと、喜びと、そして挫折に満ちていた。黒アイパッチ赤ジャケットのニコラス・レイがとにかくカッコいい。『スパイクス・ギャング』のリー・マーヴィンを思い出した。

 『5 windows』(瀬田なつき)
→漂流する映画館。そのコンセプトを巧みに利用した仕掛に、思わず「あ、やられたー」と唸った。瀬田なつきはひょいひょいと軽やかに時空を超えていく。まあ4つの窓を開けられる人はそこそこいるだろうが、あんなふうに5つめの窓を開けられるのは、おそらく天才だけだ。

 『サウダーヂ』(富田克也)
→掘って掘って掘りまくれし。そのようにして「果てなき路」はできる。だから『サウダーヂ』は物語から遠く離れて、なお映画へと近づいていくのだ。あるいは呪われているのかもしれない。もはや「ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン」と知りつつ穴を掘るしかないために。しかしそのような決意をこそサウダーヂというのではないか。

 『ファンタスティック Mr.FOX』 (ウェス・アンダーソン)
→冒頭の華麗なステップ(横移動)に魅了された。ぼくらが生きていく上でさまざまに折り合いをつけなければならないとしても、狼に腕を振って別れを告げ、ここスーパー マーケットの中でステップを踏もうじゃないか。

 『さすらいの女神たち』 (マチュー・アマルリック)
→舞台の上にすっくと立った、豊満で、エロティックで、奔放なボディ。がらんどうのホールに響くThe Sonicsの”Have Love, Will Travel”。パワフルで、自由で、ユーモラスな快作。いやほんと元気が出る。

 『アンストッパブル』 爆音上映 (トニー・スコット)
→”爆音で”列車を暴走させ、それを止める。これ以上なにが必要か、と思う。脱線機はじき飛ばしてYeah! 穀物ぶわっにYeah! 走るデンゼル・ワシントンにYeah! 飛び乗るクリス・パインにYeah! キレるロザリオ・ドーソンにYeah!

 『ヒア アフター』 (クリント・イーストウッド)
→ここにあるのは津波の映像ではない。津波の中の映像だ。そんなものは3.11をめぐる膨大な映像のどこにも見当たらなかった。すごくヘンな映画ではあるけれど……。ここで絆がどうこうと言うつもりはないが、さいごにマット・デイモンが手袋を外し握手するのには、やっぱり感動する。

 『トスカーナの贋作』 (アッバス・キアロスタミ)
→高度な、極めて高度な、ごっこ遊び。ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル、アッバス・キアロスタミのような真の大人にしかマネできない遊び。ぼくには一生できそうにない。

 『パレルモ・シューティング』 (ヴィム・ヴェンダース)
→こんなにナイーヴで、こそばゆい映画があるだろうか。ヴィム・ヴェンダースのような真の青年にしかマネできない愚直さ。とても愛おしい。なにがなんでもベスト10に入れたくなる1本。だい好きだよ、ぼくは。

以下『ザ・タウン』(ベン・アフレック)、『ザ・ファイター』(デヴィッド・O・ラッセル)、『ウィンターズ・ボーン』(デブラ・グラニック)、『猿の惑星:創世記』(ルパート・ワイアット)、『あしたのパスタはアルデンテ』(フェルザン・オズペテク)とつづく。

もしフィルムで見ていれば『プッチーニの愛人』(パオロ・ベンヴェヌーティ)はきっとベスト5入りしていたにちがいない。もっと早く劇場に行っておけば……と、悔やまれてならない。

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