小田香監督によるボスニアの炭坑を映したドキュメンタリー。何かの機械の震える様子がファーストカットに映され、炭坑についての映画なのだからドリルなどの掘削の機械が出るだろうとは思っていたけれど、想定していた以上の震えに思わず笑ってしまう。
そういえば最近日本で地下を掘削していたら水が溢れだし、仕舞いには上を通る道路が陥没してしまうという事故があったが、掘削というのは道に道路を造るようなものとは仕事の質がまったく違うのだろう。もう少し安全で合理的に仕事をしているものかと思ったがまったくそんなことはなかった。掘り進む先に何があるかも不確かで、場合によっては事故も起こってしまう。そうした危険についての緊迫した言葉も映画の中でやりとりがされていた。
だからこの映画は危険な状況に身を置いて誰も見たことのない暗がりの中を映し出したから素晴らしいのだ、と言いたいわけでは決してない。もちろん異国の地で言葉も不自由なまま、地中深くに潜り込むのはこちらが想像できないほど大変なことではあるだろうけれど、この映画の美点はなによりこの鉱夫たちが未知の地中を掘り進むのと同じように、カメラが暗がりの中からわずかな光を掘り出したところにある。これから何が起こるのか、何が見えてくるのか不確かな暗闇の中で、一瞬にして浮かんでは消えていく光が小田監督のカメラによって確かに捉えられ、その暗闇に浮かぶ鉱夫の姿や表情、機械の震えにはなんとも言い難い興奮を感じる。
学生時代の卒業制作ということらしいが、そんなことは感じさせない堂々とした作品だ。雪の景色やその被写体から王兵の『鉄西区』をつい思い出すが、そうした固有名詞(もちろん師匠がタル・ベーラであるということも)を出すまでもなく、一人の作家、一つの作品として——まさしく「鉱」として——輝いている。