「EXP / 牧野貴」のチラシがあがってきてからここしばらく、地道な宣伝活動をしています。
こうした上映イベントをやるときには毎度のことなので慣れたものというか、各自大阪や京都で精力的に、効率的に動く。
そんな感じで動いていたらあっと言う間に時間が過ぎて、上映まであと二週間。
牧野さんのことがまだまだ知られていないので、出来るだけ紹介をしていきたいと思うのだけど、ウェブにもなかなか記事がない。活字化しているものが圧倒的に少ない。
とはいえウェブをパトロールをするうちに、いくつか面白い記事を見つけたのでピックアップしておきます。
「ここはみんなが生きている場所だという認識を呼び覚ます」
これは去年『Generator』が完成してから初めて東京で上映されるというときにインタビューされたもの。
日本人は新しい映画に飢えている! クロアチアの25FPSと[+]のコラボ企画による世界で最もエキサイティングな実験映画上映会
こちらは牧野さんが主宰する[+]という上映団体が行う上映会についての記事。
牧野さんがどういうことを考えて日本で映画を作っていたか、その中でロッテルダム映画祭にどのように迎え入れられ、そして[+]をやることになったかが書かれています。
さてさて。
今回の上映作品は物語があるようなものではないので、人に説明するのも難しい。
固有名詞としてジム・オルークが、とか、世界の映画祭で賞をとって、とか言っても、知らない人にはあまり意味のあるものではないし、そういうことを言っている自分が何より固有名詞を語ることが苦手なのでできない。
それでも人と話しているうちに興味を持ってくれる人はいるので、そうして少しずつ広げて行くしかないといういつも通りの感覚に落ち着く。
すっかりお知らせを忘れていたけれど、今回のイベントでは前売り券を用意していないのです。いつもだと京阪神の劇場に頼んで置かせてもらうのだけど。
前売り券を用意するのは何かと良くて、というのも、こちらとしてはどのくらい反応があるかが読めるから、ドキドキしながら当日を待たなくてもいい。これは本当にいい。「ちゃんと人は来てくれるだろうか」「告知は行き届いていただろうか」「この時間になっても誰も来ないのは告知した日が間違ってたからなんじゃないか・・・」とか、そんなことを考えなくて済む。。。あのドキドキはとてもつらい・・・、白髪も増えるわけです。
そして自転車操業で運営する僕らにとっては、前売り券で事前に得たお金がチラシ代になったり当日の小物をそろえるために消えたりするという貧乏臭い事情もあります。。。
もちろん、安いチケットを用意することは観る人にとっても選択肢が増えていいことだろうと思います。
ただ常々やりながら思うのは、とにかく一人でも多くの人に観て欲しいし、出来ることなら安く観てほしいということと同時に、前売りを買わせるという人のこれからの時間を先取りするようなやり方が如何なものかということだったりします。今時なんでもネットで予約出来て、それこそ一週間先の座席まで確保出来るような便利さが本当に良いことなのかという疑問は常にある。その便利さには同時に窮屈さがありはしないかと。
今回の上映の場合、7日の大阪はキャパが100以上のホールになる。8日のJAPONICAは40くらいだろうか。それだけあれば満席になって入れなくて困るような人は出ないだろうと思っている。
だったらわざわざ前売り券なんて用意せず、そもそも安い値段にしておいて、ふらっとそのときの気分で来てくれるのが一番いいんじゃないかと。それが僕らにとってもお客さんにとっても幸せなことなんじゃないかと思うわけです。前売り券を準備するのも、券を作るところから手配から回収から手数料まで手間なので、もうそういうのはなしにして、その手間をかけない分、最初から安くしたらいいじゃないかと。
これは賭けでもあります。例えば前売り券は1500円で当日1800円とする、そうやってお得感を煽るわけです。
ただ、そうした「煽り」のようなものにものすごく抵抗感がある。
上映日前までに買えば安いですよと、当日と前売りの値段を計らせる。そうか、じゃあどうせ行くなら今のうちに買っておこうとなるかもしれない。あるいは『2012』はハンブルグ国際短編映画祭で最高賞を受賞しましたよ!と言ってみる。なるほど『2012』が話題作なのかと、じゃあ9日の上映に行ってみようかと思ってくれるかもしれない。
煽るということは、人を少し前のめりにさせて、小走りに、ときには全力疾走にさせることでしょう。そんなこと、いつまでもやれないですよ。みんな疲れます。
それにそうやって天秤のシステムに少しでも乗ってしまうと、例えば『2012』の前作『Generator』はたまたま『2012』よりも先に作られたというそれだけで「古い」映画になってしまう。『2012』よりも古いというだけの理由で『Generator』が観られるポイントが下がるなんてことがあっていいのか。
そう思うと、この煽って人を天秤にかけさせる「煽りシステム」には近づきたくないなと思ってしまう。
すでに作られている映画を観尽くしもしないのに、新しいから観るなんてことをしてるから、まんまと広告に乗せられ、メディアに乗せられ、大資本の都合のいいように事が進められているんじゃないかと思うわけです。
だから「○○だから観る」なんて不自由な理由で観るのではなく、「ただ観てみる」「なんとなく観る」ことを後押ししてみたい。
貴重だから、特別だから、新作だから、フィルムだから、一日限定だから観る。なんて理由がなくても、まだ観ぬ観客に備わっているはずの知性を信じて、「すごくいい作品です。観てください。」と実直に言ってみる。そのまだ観ぬ観客を信じるように、自分にも知性があるはずだと、言葉の力を信じてみる。
たぶんそれが今年の爆音映画祭で何度も繰り返し語られた「そもそも死んでいる」ことからの出発点なのではないかと思います。
ということで長くなりましたが、そんなこんなで今回は前売り券がありません。
学生が金がないのもわかるから安くしてあげたいけど、社会人だって金がない(俺はないよ!)。なので今回はまったく平等に1500円。大人も子どもも外人も犬猫もご先祖さまも1500円です。
もしお金がなくて、それでも大阪も京都のも全部観たいのだという人がいれば、宣伝や当日手伝ってもらうということで考えることは可能。連絡してください。
でも、これが牧野さんの作品を前にして、映画に出来る限り実直に向き合って宣伝をしようと思ったときの僕らなりのやり方だったりします。
世界はまったくもって簡単に語ることなどできない、あまりに複雑な形をしている。複雑すぎてそれがどんな形をしているのかも定かではない。けれど、そこにはゴツゴツとした篤い感情があふれている。それを観てもらおうと準備するところから、すでに上映ははじまっている。
ずっと前からよく聴く言葉ですが、「とりあえず観てもらえばいい」という言葉を耳にします。これは映画は観たか観てないかの一線があまりに大きいので、とにかくなんとしてでも観てもらえば、あとは作品がいいのだから伝わるはずだ、という意味で使われていました。
それを言われるたびに、本当にそうだろうかと思いながら、しかし返す言葉が見つからなかったのですが、今ならその言葉への返答が出来るような気がします。