第二次世界大戦中にドイツが使っていた暗号「エニグマ」を解読したアラン・チューリングの伝記映画。
このアラン・チューリングという人はエニグマを解読したというだけでなく、コンピューターという概念を創造した人であり、言うなれば世界で最初のハッカーだ。
ハッカーという言葉を聞き慣れない人は「ネットで不正侵入したりウィルスまき散らす人」みたいに思うかもしれないが、その認識はハッカーという言葉の誤用による。ハッカーとは、単に頭のいい人でも、プログラマーでも、パソコンを得意な人でもなく、もちろん人に悪さをする連中のことでもない。不正侵入をして他人のコンピューターに危害を加えるのはハッカーではなくクラッカーという。ハッカーはものをつくり、クラッカーはものを壊すとあるハッカーは書いている。
また、wikileaksを立ち上げたジュリアン・アサンジは「アンダーグラウンド」という本の中で「既存の枠組みに捉われない思考」を実践する者のことだとハッカーを定義している。
ハッカーとは創造する人物だ。すぐれたプログラムを書くことができるプログラマーも、自身がもつ創造性を発揮していない限りはハッカーと呼ぶには値しない。それは同時に、たとえコンピューターやプログラミングに関わっていなくても「既存の枠組みに捉われない思考」を実践している限りはハッカー足り得るということでもある。
だからアラン・チューリングはコンピューターが存在しない世界での最初のハッカーであり、しかしコンピューターを扱わなくてもハッカー足り得るということはチューリングが「最初の」ハッカーというのは嘘だとも言える。映画であればリュミエール兄弟やメリアスだって、あるいは地動説を説いた人だってハッカーだと言っていいだろう。
しかしそれでも彼が最初のハッカーと呼ぶにふさわしいのは、彼は幼い頃、他の生徒とは何かが普通でないことを理由にいじめられてしまうが、学校で教えられることに退屈を感じ勝手に別のものを勉強し始め普通でない側面を強め、それが後の職業に活きているのだから、今の世界に素晴らしい技術を作ってきたハッカーたちの始祖的存在だと考えるには十分のように思う。
話を戻す。アラン・チューリングがハッカーと呼ばれるにふさわしいのは、単にエニグマ解読に素晴らしい能力を発揮したからというだけではない。
中盤、エニグマの暗号を解読するための装置「クリストファー」が動作を続け、解読が完了しないことがチューリングら暗号解読チームを苛立たせる。
とはいえ、これはエニグマを解読した人の話である以上、ある瞬間にクリストファーはある瞬間に動きを止める。そしてクリストファーが動きを止めたその瞬間、また次の処理に向けて暗号解読チームは動きだす。彼らの目的は暗号解読から戦争を止めることへとシフトする。
アラン・チューリングが成した偉業は、ひとつは言うまでもなくエニグマの暗号を解読したことにあるが、それは暗号解読チームの他の連中のようにクロスワードパズルを解くようにして暗号と向き合うのではなく、エニグマが生成する膨大な暗号パターンをくまなく精査する装置を作る事で解読しようとしたことがなにより素晴らしく創造的な行為なのだ。
同時に、暗号を解読しただけでは戦争に勝てないということにいち早く気づき、解読した暗号から効率的に戦争に勝つ方法を導き出し、それを実践したこと。
暗号解読が完了した直後に戦争を止めることまで見通したことは、暗号を解読したことと並んで二つの偉業を達成したアラン・チューリングの偉大さ