best film of 2011 上田慎太郎

 

上田慎太郎 (DOOM!)

ueda2.jpgDOOM!を始動して早くも4年目に突入する。大きく業界が揺れた1年ではあったが、自分自身はずいぶんと前から荒野を眺めている。映画批評を意識的に掲げてはきたが、自分たちがやってきたこと、これからも目指すことはそれほど変わりはない。作品単体の価値や作家云々に考えを巡らすことで、展開する批評とは異なる視点を提示していきたい。映画って、もはや作品でもなく、スクリーンでもなく、人が集まること、場所そのもののことなんじゃない?なんておどけつつ、半ば本気でそう思っています。 

 

 



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『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 (マルコ・ベロッキオ)
 イーダのムッソリーニに対する愛憎相半ばする強い情念に惹かれたのではない。息子が父親の偽史を目の前の母親によって見せつけられ、翻弄されたあげく父の表象的な像に取り憑かれていく狂気。事実や血はどうであれ、息子が父の演説を真似るあのパフォーマンスひとつで、どうしようとも押え込めない偽史が立ち上がる瞬間には涙した。かあぁぁーーーーー!

 

 『プッチーニの愛人』 (パオロ・ベンヴェヌーティ)
 メイドにものすごい冷徹な視線を投げつけるプッチーニと奥方。また、メイドのドーリアも人をドSにさせてしまうほどの、とろくさい雰囲気はすごかった。もうもはやこの手の映画が現行でもフィルムで見れるのは最後ではないかと思わせる1年だったが、光と影の描写が非常に美しく、その演出によって劇中の真実を伏せたまま、しかし、ドーリアの卑しい思わせぶりにもみえる身振りに観客はイラっとしつつもフィルムは死を迎えることとなる。

 

 『ザ・ファイター』 (デヴィッド・O・ラッセル)
 あの弟はどんなに成長しても兄貴に頭を撫でられるんだろうな。多すぎる姉たちの「人としての画素の粗さ」に圧倒されながら、雑でもいいから人間がぶつかり合う頼もしさを感じた。勘違いでもまちがっててもいいからさ、人を信じる、閃きを信じる。それでいいやん!ほっといても荒野は広がるばかりなんだから。
 

 

 『サウダーヂ』 (富田克也)
 どこまでもひとつの映画と向き合うことの喜びと懐を見せてくれた。空族の映画は劇場の暗闇から飛び出して、明るい日常のささやかな時間にもすっと陽気な笑顔で現れる。そして、にっこりと「なんか世の中こんなことになっちゃったけど、どうしよう」と究極の参加装置を作り上げた。 

 

 『モテキ』 (大根仁)
 「あ~~あるある!痛テテテッ…」だけのアルアル共感映画では済まない。原作の土台にこれでもかと嫌味なほどサブカルネタの食材とスパイスで巧妙に幅広い年齢層の観客に届けた問題作でありヒット作。ネタとベタ、素と皮肉を絶妙な温度で仕上げてきた手腕とその射程の広さに好き嫌いをこえて与えたい1票。
 

 

 『アンストッパブル』 (トニー・スコット)
 「えっ!なんなの?」と理由はともかく列車は勝手に暴走しだすとこからゲームはスタート! 一度加速すると止まることを知らない悪夢のようなシステムはいまこの日本でまったく他人事ではないのだから、この余りにシンプルな娯楽映画を馬鹿になんて出来ない。あの馬鹿な操縦士2人に原因や責任なんて求めたところで何の解決にもならないんだから!

 

 『Generator』 (牧野貴)
  愛知芸術文化センターにてアートフィルム・フェスティバル プレミア上映。映像と音の抽象性が作り手のイメージと偶然と観客の視線によって、具体的な身体性をもち、それらの瞬間瞬間が血脈のように一気に駆け巡る。赤い光を帯びたミクロとマクロ、都市と皮膚が交錯し反転し同化する。スクリーンが見る者の対象物でなくなる時間。

 

 『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』 (村田和也)
  血の物語。血縁関係は皮肉なことに兄妹を引き裂き、やっと思いは届いたかに見えたが、やはり別れが運命付けられている。今時のCGフルなアニメーションとは少し距離をとった古典的とさえ言えるアクション表現に感嘆した。

 

 『あしたのパスタはアルデンテ』 (フェルザン・オズペテク)
  なんか ’11年は伊映画が目立った印象。こういうコメディとシリアスさの軽快なバランスはベスト。何より女優のニコール・グリマウドの美しさったら!下の字幕見てるのも惜しいほど、彼女に視線は釘付けに。

 

 『ヒア アフター』 (クリント・イーストウッド)
  3.11の影響で急に平日ど真ん中で上映打ち切りになるというので、ギリギリ滑り込んだ。余りにもフィクショナルな現実である津波から物語は始まり、導かれるように人と人が出会う軌跡と奇跡。霊感も直感も信じる、信じないでオカルトにも創造力にもなる。奇跡は意思によって起しうるものだとわかった。ありがとう!

 

 
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